逃げた先

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「どうした?」 「次音属性なんですけど、耳大丈夫ですか」  イルガの魔力による耳栓は音を遮断するものだろう。昨日の自己紹介の時にも耳がいいといった話をしていたため、大きな音は負担になる可能性がある。 「ああ、そんなことか。気にしなくていいぞ」  それでも魔力が強まったのを感じて、それならと手を打ち合わせた。一切音が漏れなかったことに、イルガが苦笑する。 「本当によかったんだけどな」  音の増幅ではなく吸収。これも音属性の中では初歩的なものだが、魔法を攻撃手段として捉えているとこういった魔法の使い方は見失いがちになる。  雷と地属性を終わらせて、一度魔力を身体中に回した。小さな火の玉は、すぐにはらはらと火の粉になって落ちていく。 「苦手か」 「そうですね……」  息を吐いて緊張を解す。背中にかいた冷や汗は会話に集中して気にしないことにした。 「よし、とりあえず一通り見せてもらったからあとは潜在的なものを……」 「あ」  嘘はつけないだろう。イルガであればアクトの家も知っているはず。検査結果が出てから言い訳をするよりは先に。 「特殊属性の数、嘘ついてて……」 「天属性も受け継いでるのか」  うなずく。天属性は母親から受け継いだ使い手のかなり少ない魔法。 「隠したいのか?」 「できれば。それに、室内だと少しきついです」  母は室内だろうとお構い無しに嵐を呼べたそうだが、そこまでの素質を受け継ぐことはできなかった。  天属性の性質を理解しているからこそ、アクトの言葉もよくわかったのだろう。特に疑問に思うことなく、イルガはなるほどとうなずいた。 「わかった。そうしたら終わりでいいぞ。お疲れ様」 「ありがとうございました」  改めて人に魔法を見せるというのは初めてのことだったからか、結界を出て元の場所に戻ると少しほっとする。 「どうだった?」  アズサが嬉々として聞いてきて、思わず笑った。 「どうもなにも、普通に魔力の検査と魔法を見せただけだよ」 「えー、特殊属性増えたりしてたらおもしろかったのにね」 「そんな簡単に増えてたまるか」  キリトが突っこんで、つられてアクトとユリも吹き出す。 「見てな、絶対なにか増えてるから」  気分を害したアズサがそう宣言して走っていったが、戻ってくるときはしょぼしょぼと肩をすくめていた。
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