虚構

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 魔法陣と聞いたから魔力を探ればいいと考えていたのだが、さすがにそれほど簡単にはしていないようで魔力はまだ持たせていないようだ。  つまり魔力――イメージではなく、魔法が構築されるときの理論に基づいて手書きしたということ。なかなかできる芸当ではないそれを用意したと思うと、この学校のレベルの高さが伺える。  魔物や他の生徒の気配を避けながら森を練り歩き、十五分ほどで目的の魔法陣が貼られた木を見つけることができた。念の為結界をはってから魔法陣に触れ、魔力を流し込んだ。  背後で魔法が起動したのがわかり、振り向く。召喚されたのは魔力の塊でできた黒の獣で、緊張感もなくなるほどと納得してしまう。  人造の魔物を構成する魔法陣は珍しくない。ギルドでも試験の際に用いられることがあるし、こういった用途にはうってつけのものだ。出力もだいぶ抑えられているようで、この学校に入学した者であれば苦戦することはまずない。  即座に鎌鼬で一掃し、魔法陣が描かれた紙を取る。実技と聞いて少し身構えていたが、終わってしまえば拍子抜けだった。 「……戻るか」  ふと気になって周囲の人の気配を探る。紙を手に入れたのか入口に向かっている者や、戦闘の気配もちらほらとある。この短時間に試験が終わったり見つけられたりしているということは、人数に対して比較的数も多く設置されていたのだろうか。  小さな叫び声が聞こえて、思わずそちらへ駆け出す。 「ユリか」  召喚された魔物からの攻撃を結界で防いではいるが、軽いパニックになってしまっているのかしゃがみこんだ状態で魔物から顔を背けてしまっている。  剣を振り抜いて魔物の首を断ち、死体を風で木の向こうへと吹き飛ばす。人造の魔物は死ぬと魔力の残滓として霧散するが、少し時間がかかる。死体でも魔物は見せない方がいいだろう。
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