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ここにいる全員がなにかしらの決意があってここへの進学を決めているはず。生半可な努力で入学できるほど魔法の高等教育は甘くないと聞く。
そんな中アクトのような人は場違いなのだろう。悪目立ちするようなことさえしなければ誰の印象にも残らないことはわかっていても、異常性を隠していることの恐怖は付きまとう。
「アクト・クラインです。風と光を使います。特殊属性はあと音があります。よろしく」
アクト。久しぶりにこの名前で名乗る。今ここに立っているのは嘘で塗り固められた存在だけれど、それでも自分が憧れて望んでいた場所だった。
「全然覚えられないな」
「最初の挨拶なんてそんなものでしょ」
自己紹介されていく中で名前や内容を覚えられたのは、奇をてらった発言をした数人とすでに会話していた三人だけ。アズサもそう言って笑ったから、そんなものなのだろう。
「んじゃ、今日はこれで終わり。明日は修練場……魔法学の授業を行う場所なんだが、その内の三番修練場に十時に集まってくれ。地図は寮に備え付けられた棚の中に入ってるはずだから遅れるなよ。魔力測定は量と質、あと属性適正を見るからな。なるべく今日は魔力の使用控えておけ」
その言葉に、みんなどこか浮足立つ。入学試験の際に量と質は同様の検査を行ってはいるが、普通ならギルドや軍に所属するような機会でないとこのような検査は受けられない。楽しみになるのは当然のことだ。
四人で寮棟へと移動する間も前を歩くキリトとアズサはその話題で持ちきりで、想像以上にみんなが期待していることに驚いてしまう。ほとんどやったことはないが比較的いつでも検査できる環境にいたせいで、あまり特別感がわかなかった。
「二人とも、本当に楽しみみたいだね」
無言で横に並んで歩いていたユリに話しかけられて、うなずく。
「そうだな……ユリは?」
「私は戦闘員志望ではないから……でも、どのくらい魔力量が増えたのか具体的にわかるのはうれしいよね」
「そっか……」
「アクト君は楽しみじゃないの?」
素直な問いに、少しだけ言葉が詰まる。
「いや、楽しみだよ」
自身のではなく三人の結果が、なのだが。同年代の人たちがどの程度の魔力を保有しているのかは純粋な興味があった。
そんなことも知らず返答を素直に受け取ってよかったと微笑んだユリに、どう会話を続けたらよいかわからず微笑み返すことしか出来なかった。
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