始まる日

7/8
前へ
/15ページ
次へ
あぁ、だめだ。 「…私は…」  昔、捨てた気持ちが、 「…私にとっては、」 ちょっとだけ、くすぶっていた思いが、 「小さい頃の、夢でした」 忘れていた夢が、 「小さい頃の、です」  彼の言葉で、息を吹き返そうとする。  でも、 「今は、違います」  もう、過去の話。 「もう、無理だと思って、努力をしてきませんでした」  だから、それを必死で押さえつける。  私は何もない子だから。  足早に街を歩く人たちと変わらない、ただの一般人。  そんな普通な子が、『特別』を目指すなんて、お笑い草だ。  努力している人に申し訳ない。 「だから、私にはできません」  だから私は嘘をつく。  なのに、 「そんなことはない」 そんな私の嘘を、男の人は間髪入れず否定する。 「そりゃ、君より年下の子が何年も前から目指してレッスンして、それでもなれない」 「芸能界っていうのはそういうところだ」 「俺も見てきたし、経験してきた」 やめてください。 私に夢を見させようとしないでください。 「だけど、目指した時が早いから、トップアイドルになれたわけじゃない。努力が遅いからアイドルになれないわけじゃない」 「君がなりたいと強く思えば、それでいいんだ」  口早に、けれど丁寧に、私に伝えようとしている。  その思いは痛いくらいに伝わってきた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加