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あぁ、だめだ。
「…私は…」
昔、捨てた気持ちが、
「…私にとっては、」
ちょっとだけ、くすぶっていた思いが、
「小さい頃の、夢でした」
忘れていた夢が、
「小さい頃の、です」
彼の言葉で、息を吹き返そうとする。
でも、
「今は、違います」
もう、過去の話。
「もう、無理だと思って、努力をしてきませんでした」
だから、それを必死で押さえつける。
私は何もない子だから。
足早に街を歩く人たちと変わらない、ただの一般人。
そんな普通な子が、『特別』を目指すなんて、お笑い草だ。
努力している人に申し訳ない。
「だから、私にはできません」
だから私は嘘をつく。
なのに、
「そんなことはない」
そんな私の嘘を、男の人は間髪入れず否定する。
「そりゃ、君より年下の子が何年も前から目指してレッスンして、それでもなれない」
「芸能界っていうのはそういうところだ」
「俺も見てきたし、経験してきた」
やめてください。
私に夢を見させようとしないでください。
「だけど、目指した時が早いから、トップアイドルになれたわけじゃない。努力が遅いからアイドルになれないわけじゃない」
「君がなりたいと強く思えば、それでいいんだ」
口早に、けれど丁寧に、私に伝えようとしている。
その思いは痛いくらいに伝わってきた。
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