始まりの始まり

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 結局、私はなかなか泣きやまなかった。  あの人は私が泣きやむまで付き合ってくれ、駅まで送ってくれた。  家に帰った私は、どこかふわふわと現実味がないまま自室のベッドに倒れ込んだ。  どこをどう歩いてきたか、道中の記憶は曖昧だった。  疲れたわけではないのだが、なんとなく心地よい倦怠感が身を包む。  ふと、ぼんやりとだけどさっきのことを思い出す。  私は家に帰るなり、夕食の支度をしていたお母さんと居間でくつろいでいたお父さんに 「明日からアイドルになる」 と唐突に伝えた。  何の脈絡もない言葉に、お母さんは目を丸くし、お父さんは腰を抜かして口をパクパクしていた。  もうちょっと言い方や順序があるだろうと頭の隅で思いながらも、私自身も何の脈絡もない出来事に思考回路が止まっていたから仕方ない。 「アイドルか…」  言葉にするが、現実味はない。  学校にはなんて説明しようか。  あの人が説明するのか、自分で言うべきなのだろうか。  学校の勉強はどうしたらいいのだろう。  数学と英語がいまいちわかってないから、それは休みたくないな。  お金かかるのかな。  自分でアルバイトして払ったほうがいいのかな。  いろんな考えがでてくるが、いっこうに答えが出ない。  まぁ、いいか。すべては明日以降のことだ。  今の私が考えることじゃない。  ひとまず問題を先送りして、このまどろみの海に潜ろうとまぶたを閉じる。  よろしく、明日の私。  すべてはあなたにかかっている。  私は寝ます、おやすみ。
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