始まる日

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 おそるおそる顔を上げてのぞき込むと、彼は困ったような顔をしていた。  …いや、そんな顔されてもと思う。  私がその顔をしたい気分なのに。  すると、彼は困ったように頭を掻いて言った。 「…なんとなく、じゃ納得しないよね?」  もちろんだ、と強く頷く。  彼はしばらく腕を組んで悩んでいるような顔を見せると、 「気を悪くしないでくれよ」 と念押しして、ぽつぽつと話し始めた。 「…たまたま、クレーンゲームの前で一喜一憂していた君を見たんだ。コロコロ表情が変わる子だなぁって」  なんと、あの貯金箱に貢いでいる私の姿を見ていたらしい。  あの時は夢中でどんな顔をしてたかわからないが、きっとろくでもない顔には違いない。  まさしく顔から火がでそうなほど、顔が熱くて仕方がない。
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