始まる日

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 いっそ消えてしまいたいが、彼の話はまだ途中だし、お金も払っていない。  恥ずかしい思いをこらえながら、彼の話を聞くことにする。 「それだけなのに、妙に惹きつけられたんだ」「特に、君の笑った顔を見たとき」 「その時、直感したんだ」 「…この子は、『アイドル』になるべき子なんだ…って」  照れくさいのか頬を少し赤くしながら、それでも私の目をまっすぐに見て話す彼は、とても真剣だった。  もちろん、私も照れくさい。  そんなこと、親や初恋の人にだって言われたことない。絶対顔は真っ赤だ。断言できる。  せめて、もう少し笑ってくれていれば 「なにおちゃらけてんですか」 くらい言えたかもしれない。  だけど、この人は悪い人じゃない。そして真剣な顔をしている。  だから、これは真摯な言葉。  嘘偽りのない、本音かもしれない。  だからこんなにも、私に鋭く突き刺さるのだ。
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