○○ 月 ○○

彰は向かいに座る円に顔を寄せ、広げたノートを指さし真 面目な顔をさらに真剣な表情にして言った。

「俺はひとつの説を考えたんだ。何の根拠もなしに 物語は できないだろうと。と、言うことは…事実を 後世に伝える為 の手段として、或いは事実が“噂”と して語り広がっていくう ちに物語と言う形になっ たのではないか？と」

「………つまり？」

円はゴクリと唾を飲み込んだ。

「こんな話、おまえは笑わないのか？」

「何で？」

円は髪を掻き上げ、口角を少し上げた。

「彰は、ギャグ系苦手じゃん。だから、こんな笑えない話 ギャグじゃなきゃマジっしょ」

目を細め『早く続きを』と促す。

「竹取物語の中でかぐや姫が言うんだ。『己が身は、この國の人にもあらず、月の都の人なり』てな。なっ、ここでカミングアウトしてるだろ？」

「ええっ！？それって…カミングアウト？」

「よく考えてみろ。『三寸ばかりなる人～』ってあっただろ？“三寸”なんてどれくらいかわかってないだろ？」

「一寸法師を縦に３人分？」

円は上の方を見て少し考えているようだ。

「あのなあ…じゃあ一寸法師の背丈を知っているのか？そもそも一寸は約３㎝だ。なら三寸だと約９㎝と言うことになる」

彰は親指と人指し指で長さを表し『わかったか！』と力を込めているが、当の円は『ふうん』と適当だ。

「と、なるとだ。かぐや姫は『人から生まれてない』タイプと『ミニサイズ』のタイプとこうダブっている訳なんだ。桃太郎や瓜子姫も小さかったようだから、ダブっていると言えるかもしれない」

彰は自分のノートに記した手書きの図を円に見せ、また少し前へと座った。

「詳しくはわからないが、室町時代あたりでこう言った物語があったようなんだ。と、言うことは…」

彰はノートの次のページをめくり円に見せた。

「おそらくそれ以降おおっぴらに出てこないのは、人から生まれて普通のサイズのごくごく一般的と言われる人があちらこちらに生まれてても不思議じゃないと思うんだ」

彰はトントンと指先でノートを叩きながら熱弁している。

「ごめん…よくわかんないんだけど…結局何が言いたいわけ？」

円の表情は既に『勘弁してくれ』と言わんばかり。

だが、彰ははっきり言って生真面目な性格だが、他人の空気も表情も読まないタイプだ。

円の表情を見たって止める気配はないし、円の気持ちを汲み取っているとは思えない