第一話 顔は大事である。

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だがここで退く訳にはいかない。 ここで誤解を解かなければ僕の人生は終わったも同然なのだ。 このまま退学になれば僕は晴れて中卒。 ただでさえ中卒を採ってくれるような場所は少ないというのに、加えて僕のこの面相。 仕事があっても人と関わる事のない工場や内職程度だろう。 おまけに恋人なんてものも、僕には既に一生縁の無い話。 つまりはここが、僕の人生最大の勝負所なのである。 周りは静かに、息を呑んで僕と彼女に見入っている。 意を決して、なるべく穏やかに語りかける。 「何もしないから、話、聞いてくれないかな?」 彼女は僕から目を逸らして小さく返事を返す。 「......うん」 よし、とりあえずは聞いてもらえるようだ。 大丈夫、丁寧に、真剣に伝えればきっと分かってもらえるはずだ。 「まず最初にこれだけは言って置きたいんだけど、僕がきみの胸を触ろうとなんてしていない。誤解なんだ。えっと、かおりさん? かな?」 「......島崎」 オーケイ、名前で呼ぶなって事ね。 刺激したくないし、大人しく従っておこう。 「島崎さんの肩に糸くずがついていたから、その事を教えようとして指指そうとしたから、島崎さんは勘違いしたんだと思うんだ」 今はもうついてないけどね。 どうやら転げた時に、糸くずも取れてしまったようだ。 ここで初めて島崎さんは僕と目を合わせた。 じ~っと僕を見つめてくる。 ここで目を逸らせば嘘と思われるかもしれない。 負けじと僕も彼女を見つめる。 こうして見ると、島崎さんはやっぱり可愛い。 リスのような小動物的な可愛さが彼女にはある。 島崎さんには僕はどういう風に見えているんだろうか。 妖怪? 動物? 虫? それとも......。 「お、おい見ろよ。あいつ、モアイ像みたいな迫力ある目つきで島崎さんの事睨んでるぜ」 僕はどうやら生物ですらないようだ。
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