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だがここで退く訳にはいかない。
ここで誤解を解かなければ僕の人生は終わったも同然なのだ。
このまま退学になれば僕は晴れて中卒。
ただでさえ中卒を採ってくれるような場所は少ないというのに、加えて僕のこの面相。
仕事があっても人と関わる事のない工場や内職程度だろう。
おまけに恋人なんてものも、僕には既に一生縁の無い話。
つまりはここが、僕の人生最大の勝負所なのである。
周りは静かに、息を呑んで僕と彼女に見入っている。
意を決して、なるべく穏やかに語りかける。
「何もしないから、話、聞いてくれないかな?」
彼女は僕から目を逸らして小さく返事を返す。
「......うん」
よし、とりあえずは聞いてもらえるようだ。
大丈夫、丁寧に、真剣に伝えればきっと分かってもらえるはずだ。
「まず最初にこれだけは言って置きたいんだけど、僕がきみの胸を触ろうとなんてしていない。誤解なんだ。えっと、かおりさん? かな?」
「......島崎」
オーケイ、名前で呼ぶなって事ね。
刺激したくないし、大人しく従っておこう。
「島崎さんの肩に糸くずがついていたから、その事を教えようとして指指そうとしたから、島崎さんは勘違いしたんだと思うんだ」
今はもうついてないけどね。
どうやら転げた時に、糸くずも取れてしまったようだ。
ここで初めて島崎さんは僕と目を合わせた。
じ~っと僕を見つめてくる。
ここで目を逸らせば嘘と思われるかもしれない。
負けじと僕も彼女を見つめる。
こうして見ると、島崎さんはやっぱり可愛い。
リスのような小動物的な可愛さが彼女にはある。
島崎さんには僕はどういう風に見えているんだろうか。
妖怪? 動物? 虫? それとも......。
「お、おい見ろよ。あいつ、モアイ像みたいな迫力ある目つきで島崎さんの事睨んでるぜ」
僕はどうやら生物ですらないようだ。
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