姫と担任

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そうして始まった、オーケストラのチューニングがイヤフォンから流れ出す。布団が、身じろぎを始める。勿論、動いているのは庵だが。 不意に、横を向いた庵と視線が合う。そのまま彼女はこう言った。 「おはよう、拓真」 僕はプレーヤーの電源を落としてから返事をした。 「おはよう、庵」 それから彼女は、眠そうな目のまま布団を剥いで一言。 「拓真、寒い」 「ほらよ」  そこら辺にあったストールを彼女に渡す。 「ありがと」  素っ気ない返事が帰ってきた。  彼女は黄緑のチェックのパジャマの上に、同系色のそれを羽織るとベッドの横に付いているはしごのようなものを降りてきた。手を差し出すと、少しだけ体重を掛けてきた。  彼女の部屋を出て、二人で小夜さんが作った朝食を食べると、既に制服に着替えていた僕は庵が着替えるのを待つ羽目になった。 「まだ?」 「まだ」  様子を尋ねると、宜しくない旨の返答が返ってきた。  時計を見ると、待ち合わせまであと一時間弱ほど。待ち合わせ場所の喫茶店まではバスで行くのだが、あいにくこの時間帯は本数が少ない。 「そろそろ出ないとバスに間に合わないぞ」 「もうちょっと」 そう言って、庵は出てきた。 「言葉の選び方が変だぞ」 「久々に早起きしたから、褒めて欲しい」  会話のキャッチボールが見事に成り立っていない。これは、彼女の怠惰が原因なのか、単なる寝ぼけかは毎回分からない。 「じゃあ、行くか」 「そうだね」 そうして、僕らは家を出た。
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