姫と担任

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バスに乗ること30分。ようやくカモミールの近くのバス停に着いた。降車ボタンを押されてやや不機嫌な庵をなだめながらカモミールへと歩く。 カランコロンカラン。 ドアの上にあるベルが小気味良い音をたてて、歓迎してくれているような気がする。 「いらっしゃいませ」 手書きの『研修員』の札を着けたウエイトレスに声をかけられた。待ち合わせの胸を伝えようとすると、呼び止められた。 「拓真君に庵ちゃん、こっちこっち」 声がした方を向くと、担任が居た。20代であり、セミロングの黒髪、どちらかと言えば可愛い系、と生徒に好まれそうな容姿をしている。身長に関しては、僕が170代、庵は150代後半なので、担任の方が少し小さい。 とりあえず、テーブルを挟んで座る。僕がコーヒー、庵がカフェラッテをそれぞれ注文する。 担任が、手元にあるミルク多めのカップに口をつけてから、話し始めた。 「えっと、庵ちゃんに相談するときは、自己紹介から始めないといけないんだよね。私は、瓜生緋奈(うりゅう/ひな)といいます。あなたたちの、2-Dの担任よ。担当は国語の現代文。こんなところでいいかしら?」 はい、と答えながら、この人は良い人だと僕は思った。 この自己紹介は、そもそも庵が人の名前を覚えられないから始まったものであったが、大体の大人は怪訝な顔をする。 予め知っていた人は担任が初めてなのではないか。 「はい、私が野崎庵で、こっちが藤原拓真です。緋奈先生、よろしくお願いします」 心なしか、庵も丁寧に対応する。 「こちらこそ、よろしくお願いするわ」 ちょっと、いやかなり友好的なムードだ。
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