三章:真夜中の来襲者

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   リュウヤの大剣が動きだすよりも速く肉薄し、剣を突き出す。走った勢いを利用した刺突は、難なく大剣によって阻まれます。銃弾を防いだのですから、これは想定の範囲内です。    痺れる手に鞭を打ち、私は剣を引くと一歩下がります。    明らかな隙。私からはすぐ攻撃を加えられない間合い。リュウヤがそれを見逃す筈もなく、長いリーチを利用して私を両断しようと大剣を振り下ろします。    理想的な攻撃が来ました。あとは避けて、あれを叩き込むだけです。横に跳び、私は紙一重で大剣を回避。そして、持っていた剣を放ります。   「なっ!?」    リュウヤが私のおかしな行為に、目をギョッとさせる。敵の目の前で武器を捨てるなんて、頭がおかしくなったとしか思えないでしょう。    けど――武器は一つじゃありません。    私は背中に手をやりもう一つの武器、ハンマーを掴む。同時に身体の向きを横に。狙いを変えます。    剣、ハンマー。武器が一つでないように、叩くべき対象もまた、一つではないのです。    腕の力を総動員させ、私はハンマーを大剣へ叩きつける。    痺れていた手の感覚がなくなるくらいの、大きな手応え。それが伝わると同時に、今までで一番大きな金属音が耳をつんざきます。    叩いた私の方がダメージを多く負ったでしょう。    しかし――大剣の先がうまく床に刺さってくれました。   「これで決まりです」    狙い通り。口元に笑みを浮かべる私へ、リュウヤは馬鹿にした口調で言います。   「こんなんじゃ、時間稼ぎにもならないぜ」    ええ、そうでしょう。先程、床に刺さっていた大剣を抜くのを見ましたから、よく分かっています。    一秒から二秒。それくらいの時間でリュウヤは体勢を整えるでしょう。    剣は床、ハンマーは振るまで時間がかかる。私が無防備な彼に攻撃を加えることは不可能です。    ――そう、『私』は。   「時間稼ぎではありません。私は……囮です」    微笑み、私は走り出すと後ろの人物――フルスさんへ合図を出します。    詠唱を既に終え、頭上に大きな火の玉を浮かべる彼女は頷きました。   「――終わりよ!」    そして、魔法を放ちます。  
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