三章:真夜中の来襲者

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   リュウヤは客観的に見ても、油断していました。大剣が刺さり、すぐ行動に移していたならば、まだ避けられる可能性もあったでしょう。    しかし、余裕を見せてしまった。私だけしか見ていなかった。    故に回避は不可能でしょう。大剣を抜いたとしても、捨てたとしても、避けられるタイミングではありません。   「っ……」    リュウヤの息を呑む声。隙を作らなくとも当たりそうな速度で、火の玉はリュウヤに命中します。    爆発や爆風はありませんでした。しかし彼を中心に大きな火の渦ができ、気持ちいいくらいの勢いで燃え盛ります。    火でリュウヤの姿はすぐ見えなくなりました。……どう控え目に見ても、助からないでしょう。これだけの火です。火傷だけでは済みません。   「リュウヤ……」    ごめんなさい。口にしようとして、私は閉口します。    自分を通すため、彼と戦ったのです。謝るのは何か違う。    火の前。肌が焼けると思うほど熱いのに、私は何故か冷たさを感じます。    本当にこれで良かったのでしょうか。   「……これくらいで俺はやられねえぜ」    聞こえる筈のない声がしました。    ハッとして顔を上げれば、まるでコンロのスイッチを切ったように、火が一斉に消えます。    有り得ない。自然とそんな言葉が頭に浮かび、私はリュウヤの姿を捉えます。    傷一つないリュウヤが先程と変わらぬ位置に立っていました。  
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