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それが幸いしました。
あちこちからぶつかってくるスライム達。それらの攻撃は大したことなく、一個一個はゴムボールくらいの威力でした。
さっきは飛ばされすらしたのに。どうやら初撃は打ち所が悪かったみたいです。
「あいたたた!」
とはいえ、それを延々当てられるのは辛い。休む間もなく動く暇もなく体当たりを浴びせられ、私は何もできずに立ち尽くす。
このままでは消耗していくばかりです。なんとかしないと。
……しかし、周りは草ばかり。状況を改善できるようなものはありません。
スライムに殴られて倒れる。なんて情けないことか。
嗚呼、せめて可愛い女の子に見送られて逝きたかったです。
容赦ない殴打を身体に受けながら、私は来世に想いを馳せます。
やっぱり来世は美男子に生まれたいですね。異世界モノから転生モノへ移行とか、いかがでしょうか。
「あなた、何やってるのよ!」
あ、可愛い声。本当に転生モノに移るんですか? 流行に乗るのは嫌いじゃな――え?
私は気づきました。私を取り巻く打撃が、消滅していた事実に。
誰か助けに? 剣を支えに、私はふらつきながら後ろを振り向きます。
「スライム相手に手こずってたのかしら?」
小柄で華奢な身体。腰まであるピンク色の髪。質が良さそうな、シワ一つないブラウスと、紺のコート。
……いかにも育ちのいいお嬢様、といった少女がそこにいました。
見た目的に、十六の私より一歳二歳くらい年下でしょうか。
こう言ってはなんですが、すごく価値の高そうな女の子でした。
頭には、ヘアピン代わりのきらびやかな羽飾りを付けていて、服も一目で高級品だと分かります。
さらには彼女自身の顔立ちがいいというオマケ付き。
富と美貌を兼ね備えた少女。完璧と言える女の子です。
「あなた、それでよく生きていられましたわね」
呆れたような視線を私へ向ける彼女。肩を竦め、やれやれといった様子で嘆息する。
いつもなら冗談の一つも言うところですが、私は力を振り絞って少女へ叫びます。
「危ないですよ!」
今まで私をリンチしていたスライムが、全員少女へと標的を変えていたのです。
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