三章:真夜中の来襲者

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   フルスさん一人ではとても敵わない相手です。    早く立たないと、早く駆けつけないとまずい。鼓動が強くなるのを感じつつ、私は焦って身体を起こそうとします。    ですが、うまくいかない。手が身体を支えきれずに顔から床に突っ込みます。   「急いでるのに――」    顔を上げた、その時でした。        フルスさんが切られたのは。    私がそうだったように、あっさりとリュウヤの振った刃に当たり、彼女は倒れました。    たった一撃で力を失ったかのように床で動かなくなります。    一瞬、何が起こったのか理解できませんでした。考えていたことが実現したのに、私は虚を突かれます。    できていたようで、存在すらしていなかったのです。心構えが。    フルスさんを守ると言いながら、それを失敗したときのことを、私は考えていなかった。    もし失敗したら、それは……絶望しか残らないから。   「フルスさん!」    意識が遠退くような感覚。絶望が私を襲い、血の気の引く悪寒が身体を走ります。    怒りで立ち上がる、なんてできません。失敗した、フルスさんが死んだ。その事実が私から熱を奪い、身体の感覚すら曖昧にさせます。   「フルスさん……私は……」    何もできなかった。    恩返しと、守ると言いながら、私は……中途半端なままで。    嗚呼、本当に――   「馬鹿だ……っ」    意識がはっきりします。    このまま死ぬのも生きるのも、断じて拒否です。私はこれまでのことを無駄にしたくない。    この世界に来てたった二日。けど、沢山のものを貰いました。    フルスさんがやられたのは悲しいこと。悔やむべきこと。けど、だからといってここで絶望していてはいけない。    せめて遺産は守りたい。フルスさんが命をかけて戦ったのだから。  
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