三章:真夜中の来襲者

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   息を大きく吐いて、手を伸ばします。今度は……大丈夫。    時間は少しだけど経った。それに、大切なことに気付けた。立てる。立ってみせる。    どうやって遺産を守るかは分からない。けど、時間稼ぎくらいは。    呼吸を整えつつ、台座を確認します。遺産を持って逃げ回る。無意味に思えますが、今の私にはそれしかできません。リュウヤに向かっていって、勝てるとも思えませんし。   「ふっ!」    一気に身体全体を使い、立ち上がると同時に疾走します。リュウヤの方を見ず、真っ直ぐ走る。    妨害はありません。なんとか私は台座へ着きました。    安心する私の後ろ。リュウヤのため息が聞こえます。   「まだ走れたか。タフさは相変わらずだな、お前」   「大切なものためですから」   「……そういうのも変わらないな」    どうやら彼は走ってもいないみたいです。後ろを振り向くと、リュウヤは呆れた表情で私を見ていました。倒れているフルスさんの前で。   「けどどうする。走っても逃げても、どうにかなる問題じゃない。時間稼ぎだって無駄だ。俺は継承者くらいにしか負けない」   「大した自信ですね……」    私が何をしようか――いや、何ができるかよく分かっているようで。    しかしリュウヤの言っていることは事実でしょう。私が逃げても、多分少しの時間と手間で終わる。仮に時間を稼げたとしても、リュウヤが負けるとは考え難い。    故に無駄だと言われても仕方ありません。    ……でも、無意味ではないです。   「私は最後まで諦めたくないので」    これが、私のできることだから。    迷いはありません。私は遺産を掴みます。    すると、信じられないことが起こりました。   『遺産継承、承認』    頭に機械のような声が響き、視界を覆うほどの眩い光が発せられたのです。    状況が理解できない内に、私の意識はその奔流に呑まれていきました。  
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