一章:遭遇

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   よし、ならここはからかってみることにしましょう。    可愛い女の子が困る表情は、少し好きな部類に入りますし。   「いいんです。私はスライムより低い位置に立つ人間。あなた様に助けられても、きっとすぐ死ぬ運命なのですから」   「なな、何言ってるのよ!? 確かに弱いのは否定できないけど……死ぬなんて」    あ、傷ついた。今度は割と傷つきましたよ私。   「なんで体育座りするの!? 自分で言ったことよね!?」   「デリケートなのです。否定してほしい自虐だったのです」    まあ、肯定以外だったらなんでも良かったんですが。   「面倒ですわね……。仕方ないですわ、ほら立ちなさい」    体育座りで塞ぎ込む私を、少女は無理矢理立たせる。   「いい? 死ぬとか言っても、いいことはないわよ? 悪いことしかないわ」   「え? じゃああなた様は、死ぬと言った私を見捨てるんですね」    やけに真面目なトーンで語りかけてきた少女へそう返すと、少女は首を勢いよく横へ振る。   「しない! しないけど! 気持ちの問題ですわ!」    この人すっごくいい人です。    ……ふむ。死ぬとかは安易に言うものじゃありませんよね。必死な少女の様子に、申し訳なくなってきました。    私は目を少し逸らし、小さな声で言います。   「やっぱり悪いことしか起きない……」   「ええぇ!? そっち!? 失礼よね、それ!」    死ぬ死ぬ言うのは止めましょう。からかうのは止めませんが。  
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