一章:遭遇

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   ……さて。    雇われると決まりましたし、武器を回収しておきますか。    私は伝説の剣を引っ張ります。地面に深く刺さったそれは、とても動きそうにありません。   「びくともしません……っと。文句は言いませんよ。感謝するかもしれませんが」    時間がかかりそうなので、小粋な会話を再開します。   「変態じゃない。あ。そういえば、まだ名乗ってないわね。お互いに」    剣に体重をかけてぴょんぴょこする私の近く。少女が髪をかき上げ、いかにも気取った表情で名乗ります。   「私はフルス・フルミネス。一応、商会の社長をしているわ」    なんともまあ。私より若く見えるのに社長とは。   「フルス、さんっ、です――ね! いい名前で、すね! 好きです!」   「ぴょんぴょんしながら喋るのは止めなさい」    結構シュールで気に入ってたんですけど、フルスさんはそうでもなかったみたいです。    仕方なく跳ぶのを止め、剣を引っ張ることに。   「私は桐崎 楼です」   「切り裂き? なんか痛いわね。まあいいわ。これからよろしく」    ……名前を痛いと言われたのは初めてですね。楼は確かに痛々しいですけど。   「ところで、キリサキ――ロウはさっきから何してるの?」   「見て分かりませんか? 伝説の勇者になろうとしているのです!」   「……間抜けな馬鹿にしか見えないわ。ほら、ちょっと貸しなさい」    私の手をどかし、剣の柄を握るフルスさん。    まさか剣を抜くとか言いませんよね? 私より小さいのに、そんなこと――   「よっ」    あっさり抜けました。    フルスさんが伝説の勇者なのだと思ってしまうくらい、いとも簡単に。    あれだけ私が苦労したのに、フルスさんは涼しい顔をして、私へ抜いた剣を差し出してくれます。   「これで街に帰れるわね」    彼女の異常な力と、可愛らしい笑み。    矛盾する二つを目にし、私がこの世界の理を疑うことに、何の不思議があるでしょうか。    ……私は結構ファンタジーな世界に来たみたいです。  
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