一章:遭遇

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  「フルスさん!?」    辺りを見回してもフルスさんの姿は見当たりません。    て、手品!?     い、いや街中でやってどうするんですか、テレビじゃあるまいし。    一体どういう……まさか敵!?    遠回りな思考が敵という答えに辿り着き、私は自然と剣の柄を握ります。   「離しなさい馬鹿!」    すると、すぐ近くでフルスさんの声がしました。続いて、ガッと鈍い音が響きます。    いました。姿が見えないかと思ったら、地面に倒されていたようです。    なるほど、そういうトリックでしたか。視界を下へ向けた私は納得します。    ひとまず無事なようでした。フルスさんの上に誰かが乗っていますが、何かをする様子はありません。    むしろ危害を加えているのはフルスさんでした。    彼女は必死な表情をして、上へ覆い被さる人物へ器用に膝を叩き込んでいます。    このボコボコにやられてる人が、フルスさんを拐った『何者か』なんですよね。まあ、拐ったのではなく、押し倒した、が正しいですか。    フルスさんが銃を出したりしない辺り、本気で抵抗していないのでしょう。となれば、この人とフルスさんは何らかの面識がある筈。    私がのんびり観察を続けていると、サンドバッグ状態の何者かがフルスさんを抱き締めました。    強い。壊れるほど強い抱擁です。   「フルスー! 会いたかったよー!」   「やゃあああ! 痛いから! 力を考え――やめ! 止めなさい!」    絶叫です。何者かの抱擁に、フルスさんが大声を上げて抵抗しています。    しかしフルスさんの声は何者かに届かないようで、抱擁は止まることはありませんでした。    よし……ここは恩を返すとき。そしてあわよくば好感度ゲットです。私は若干青くなってきたフルスさんを救うべく、未だ抱き締め続ける何者かの肩を叩きます。  
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