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「確かに蕭然としてますね。彫刻とか置いてはどうです?」
「彫刻ねえ……なんかアレ、怖いから嫌なのよね」
「毎日鏡を見ているのに……?」
「人間って彫ったらどうなるのかしら。綺麗そうよね、真っ赤で」
「じょ、冗談です! フルスさんはお美しい顔ですとも!」
殺気が放たれたのでフォローに回ります。いくらフルスさんにでも、彫刻刀で刻まれるのはちょっと。
「はあ……。
そんなわけで、彫刻以外の物を配置しようと考えてるのよ」
「鏡とかどうです? 彫刻要らずですよ」
叩かれました。ええ、当然ですとも。
「ごめんなさい……。じゃあベンチとか、噴水はどうですか? 優雅で実用性がありますよ」
「噴水は考えてたけど、ベンチね……。中々いいわ」
私がふざけていると分かっているようで、気分を悪くした様子はなく、フルスさんは独りごちます。
「さて……ロウ、自己紹介くらいはできるわよね?」
「はい。フルスさんの婿だと名乗ればいいんですよね」
それくらいなら、高校受験を乗り越えた私にとって朝飯前ですよ。
「ナイフでも彫刻できるかしら」
「キリサキ ロウ。日本というところからやって来ました。十六歳です」
ええ、朝飯前です。恐怖に支配なんてされていません。フルスさんが短剣を出して、こちらを見てきたりなんてしてません。
「上出来よ。これから仲間の前で自己紹介させるから、仲良くなれるように、誠意を持ってやりなさい」
自己紹介ですか……苦手ではありませんが、はてさてどうなることやら。
きらびやかな屋敷を見上げつつ、私は僅かな不安を感じるのでした。
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