一章:遭遇

23/33

98人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
  「確かに蕭然としてますね。彫刻とか置いてはどうです?」   「彫刻ねえ……なんかアレ、怖いから嫌なのよね」   「毎日鏡を見ているのに……?」   「人間って彫ったらどうなるのかしら。綺麗そうよね、真っ赤で」   「じょ、冗談です! フルスさんはお美しい顔ですとも!」    殺気が放たれたのでフォローに回ります。いくらフルスさんにでも、彫刻刀で刻まれるのはちょっと。   「はあ……。 そんなわけで、彫刻以外の物を配置しようと考えてるのよ」   「鏡とかどうです? 彫刻要らずですよ」    叩かれました。ええ、当然ですとも。   「ごめんなさい……。じゃあベンチとか、噴水はどうですか? 優雅で実用性がありますよ」   「噴水は考えてたけど、ベンチね……。中々いいわ」    私がふざけていると分かっているようで、気分を悪くした様子はなく、フルスさんは独りごちます。   「さて……ロウ、自己紹介くらいはできるわよね?」   「はい。フルスさんの婿だと名乗ればいいんですよね」    それくらいなら、高校受験を乗り越えた私にとって朝飯前ですよ。   「ナイフでも彫刻できるかしら」   「キリサキ ロウ。日本というところからやって来ました。十六歳です」    ええ、朝飯前です。恐怖に支配なんてされていません。フルスさんが短剣を出して、こちらを見てきたりなんてしてません。   「上出来よ。これから仲間の前で自己紹介させるから、仲良くなれるように、誠意を持ってやりなさい」    自己紹介ですか……苦手ではありませんが、はてさてどうなることやら。    きらびやかな屋敷を見上げつつ、私は僅かな不安を感じるのでした。  
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加