一章:遭遇

25/33

98人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
  「変人? 私がですか?」    しかし聞き捨てならない台詞が聞こえたので、果敢に会話を試みます。   「ああ、フルスが言ったんだ。私に変なことを言う阿呆だと」    きっぱりと話してくれる男性。社長を告発しているというのに、躊躇いがありません。    この方正直ですね。性格は結構好きかもしれません。    さて。    私はフルスさんへ向き直ります。   「……フルスさん?」   「せ、正当な評価でしょ! いつふざけるかも分からないし」   「私が、愛するフルスさんの言いつけを破る筈がないです!」   「今破ってるじゃない!」    な、なんて策士……。    そう言われては反論のしようがありません。絶対に破る自信がありましたし。    私は自己紹介に最後の一文を加える決意をします。   「そうですね。では認めましょう……私は変人です!」    今度こそ場が凍結しました。    拳をグッと握って高らかに宣言したのですが……明らかに浮きましたね。   「女性好きなだけですよ? 特に危害は加えません」    慌てて私が自らを補足すると、くすっと小さな笑い声がしました。   「フフッ、面白い子だ。いい拾い物をしたのではないか?」    先程の男性の隣、髭を生やしたダンディな男の方が言いました。    すらりとした細身の身体。白髪混じりの茶髪をオールバックにしており、眼鏡越しに優しげな蒼色の目が見えます。    落ち着いた色のシャツとズボン、ジャケット。ネクタイをきちんと身に付けており、服装の乱れも見当たりません。抜け目のない気配りが見て知れます。    寛容で穏やかな紳士。おじいちゃんと呼びたくなるような、素敵な方でした。  
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加