一章:遭遇

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   働かせる側にも事情があります。ポッと出の私が働くのは、大きな迷惑をかけることでしょう。いつ仕事に慣れるか分かりませんし。    フルスさんの答えにショックは受けませんでした。が、自分ばかりを考えて恥ずかしいことを言ってしまった、という後悔はあります。    ちなみに自分のこととは、好感度稼ぎのことです。   「けどロウはやる気はあるみたいだし……多分、なんでも大丈夫よね」   「じゃあ俺のとこに来るか?」   「私は歓迎する」   「僕も問題ないですよ」   「こっちには来んなっ」    次々と上がる声。大歓迎ですね。一部を除いて。    これだけ優しくされると、嬉しい気持ちになります。    同時に、敢えてシュネーさんのところへ行ってやろうかなー、なんて気も。うふふ。   「これはこれで悩む……」    シュネーさん以外が私を受け入れられる状況に、フルスさんは頭を抱えました。意外と優柔不断です。   「ならばお試しで私と働くのはどうかね?」    そこで提案したのはリーレンさんです。気軽な感じで手を挙げながら彼は言いました。    雑用だと言っていましたし、仕事初心者にはうってつけの業務内容なのですね。多分。    と思ったのですが、フルスさんは露骨に眉をしかめました。   「えー……私は反対だけど、ロウは?」    どこでもいいと言っていたのに、なんて変わり様。    よ、余程の理由が? 本能が危険だと警鐘を鳴らします。    ――しかし、好感度を考えるとここは。   「大丈夫です! 法的に問題ないことなら、何でもやりとげてみせます!」    受け入れるしかありませんよね! 何事も弱気ではいけないのですっ。    最低限の保身をして、私はまさに安請け合いと言うべき対応をとりました。    これがあの、悪夢の始まりとは知らずに……。  
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