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ロイヒテンモーント。略称『ロント』。
私達が住むその街は、広大な敷地を持つ商業都市です。
朝から夜まで賑やかであり、周囲が暗闇に包まれてもその活気、光を失うことはありません。まさに月だと言えます。
と、そんな感じで昨日の説明を改めて語りつつ……着きました、大通りです。
「さてと。どこか行きたいところはある?」
相も変わらず人が流れ続ける通りの前で、フルスさんは立ち止まりました。
振り返って、私を見ます。
行きたいところですか。初めての街ですし、特に希望はないんですけど。
「どこでもいいですよ。フルスさんのおまかせで」
「ん、オーケー。任せなさい。ご飯前だし、食べ物はよしておこうかしら」
頼もしい返事とともに大通りへ入っていきます。私はその横につきました。
人の流れを恐ることなく、大通りを我が家の廊下のように、堂々と歩いていくフルスさん。前を向いていた彼女は、少し歩くと私の方を向きました。
「ロウ」
「なんですか?」
「商会から出たいと思った?」
はい? いきなりどうしたんですか?
首を傾げたくなる私を映す、不安げに揺れる瞳。彼女の目を見て、ここはふざける場面ではないと直感的に判断します。
「全然そんなこと思ってませんよ。安心して下さい」
「そう……。って、私は不安なんて言ってないわよ?」
ジト目を向けるフルスさん。いや、でもホッと息吐いてましたよね? 強がり?
「じゃあなんでそんなことを聞いたんですか?」
「リーレンの仕事が大変だから、ヘタレてないか気になっただけですわ。それだけ」
フルスさんはそう言って、プイッと目を逸らしてしまいました。
明らかに嘘だと分かりましたが、黙っておきましょう。私をちょっとは心配してくれたみたいですしね。美少女に心配される……それだけで涙が流れそうなくらい嬉しいです。
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