二章:新たな日常

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  「普通に会話しましょ。ロウ、何か聞きたいことある?」    何もなかったように、笑顔でそう尋ねるフルスさん。ふざけてもすぐいつも通りに……友達みたいです。   「聞きたいことですか……特にありません。困ってませんしね」   「もっと戸惑ってるのが普通だと思うんだけど……」    呆れたように言うフルスさん。尤もな意見です。    しかしまあ、あらすじにもあるように、私は適応力が高いのです。命の危機がない限り、大抵の環境には適応できると言っても過言ではないでしょう。    そんな私が、衣食住を保証された今、疑問を抱くわけもなく――あれ? なんかただ馬鹿なだけ?    い、いえ、疑問を抱く必要がないのです! 決して馬鹿ではありません! 失敬な!   「そうねえ……となると、話題は一つかしら」    自分のせいで危うくなった尊厳を、自分で保つという、おかしなことをしていると、フルスさんは人差し指を立てて『1』を示します。   「ロウは元の世界に戻りたくないの?」 「全然」    私は即答しました。台詞と台詞の行間がなくなるくらい早く。真顔で。   「あなた……こう言うのもなんだけど、未練ないの?」    フルスさんは困っているみたいでした。私があまりに早く答えたからでしょう。    フルスさんに心配をかけるわけにはいきません。正当で、納得できる理由を言わなくてはいけませんね……。   「ありませんよ。向こうに友達はいませんし、家族だって血の繋がりがとおーい人達しかいません。あんな世界より、こっちの方がいいです」   「……そう。なら、何も言わないわ」    やれやれ。そう言わんばかりに肩を竦め、フルスさんは首を横に振ります。    そして、ポツリと続ける。   「――けど。ま、それで良かったのかもね。元の世界に戻る方法は分からないし」    元の世界に戻る方法は分からない。    フルスさんから何気なく言われた言葉に、未練なんてないのに、私は少し辛くなりました。    私は今どんな顔をしているのでしょうか?    いつも描写していることが、その時だけは分かりませんでした。  
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