二章:新たな日常

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                     その日の夜も、星は空で綺麗に輝いていました。    美しく、科学は欠片くらいしか見当たらず、月明かりが柔らかく辺りを照らす……幻想的な風景。    私は今日知ったテラスの上で、それを見ていました。    地球では見られない景色。    そう思うほど、私の胸は苦しくなります。    未練はないと言いつつも、多分本当は恋しいんだと思います。    だって、未練はなくとも、思い出はありますから。    未練は消費し、持ち運ぶこともできます。けど思い出はそうはいきません。    私の中に存在しながら、思い出が生まれた場所にも存在するのです。    難儀なもの。    人間とは、一生割りきれない生き物なんだと思います。   「地球……お味噌汁は恋しいですかねぇ」    だからこそ、毎日が楽しいわけで。    この苦しさも、日々のスパイスと受け取りましょう。    私はいつも通り暢気に考えて、欠伸をしました。    ……眠い。そろそろ寝たほうがいいですね。    自室は二階。テラスからは結構近いです。明日も仕事ですし、夜更かしをするわけにはいきません。私は片足を軸にクルッと百八十度回転。    出入口の窓に向かい――   「あら」    奇遇にも、テラスへ入ってきた人影を見つけます。    細身な人影はゆっくりとこちらへ。徐々に月明かりの照らす中へ。   「こんばんは。こんな場所で少女が一人、夜更かしかね?」    現れたのは眼鏡をかけた老人……リーレンさんでした。    相変わらずのダンディな声で、冗談っぽく言います。  
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