二章:新たな日常

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   夜ということで、ネクタイとジャケットは身に付けておらず、少しラフな服装の彼は、私の横に来るとテラスの手すりに寄りかかりました。    外の景色を眺め、目を細めます。   「少しは慣れたかね? この世界に、屋敷に」   「はい。お陰様で大変だということがはっきり分かりました」    私の返答に、彼は声を出して笑います。   「そうだ。今はそれでいい。楽だなんて思われたら、これからが大変だからな」    死ぬほど苦労しておけば、後にちょっとの苦労が楽だと思える。そういうことが言いたいんでしょうか。    一頻り笑った後、リーレンさんは私の方へ顔を向けました。   「屋敷で生きるにはそれで充分だ。――しかし、この世界ではそうもいかない」    真剣な口調。不意に周囲の空気が研ぎ澄まされます。眼鏡越しに、私を見通すような蒼い目が真っ直ぐ向けられました。   「加減をしないことだ。浅いところを狙っていては、ミスも減らない」   「……え? 何のことです?」   「今日の朝、君はミスを連発しただろう。無意識かもしれないが――それは加減が原因だと思っている」    『加減』。意識してませんでしたが……そうかもしれません。    ミスとは、地面に武器を激突させたことです。    つまり、私が他者を傷つけたくないから浅いところを狙って、その結果伝説の武器を数々造り出したと……。    けど、仕方ないと思います。もし本気で切ろうとしたら完全に人殺しです。    肩を深く狙ったりすれば、骨に当たるまで肉を裂いてしまうでしょう。    刃が骨に当たって止まる――切る側、切られる側、どちらで想像しても気分が悪くなります。嫌な音が鳴りそうです。  
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