二章:新たな日常

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  「ですが、思い切りやって皆さんに当たったら――」   「仲間を切れとは言っていない。寸止めでいい。要は深いところを狙う練習をするべきだと言ったのだ。君はなんとなくだが……魔物にすら躊躇しそうだからな」    ひ、否定できません。魔物も切ったら気分悪くなりそうですし。    心によく刻んでおきましょう。うん。    私は納得しつつも、ため息を一つ。   「……けど結局、切るときは切るんですよね」   「当然だ。街を出れば魔物、野盗、敵はいくらでもいる。自衛のため命を奪うこともあるだろう」    ……どうにも重い。日本にいたからかは分かりませんが、そんな世紀末的なことを言われても、命を奪っていいとは思えません。魔物は……襲ってきたなら、自衛で切ってもいいと思いますけど。    野盗であっても人間の命を奪ってしまうのは、果たしてどうなのでしょう?    私に向けられたままの目。リーレンさんと交わる視線を逸らさず、私は考えます。    やっぱり……切りたくありません。せめて戦闘不能くらいに抑えたいです。   「ま、考えておくことだ。守るためには戦い、奪うことをしなければならない。それが何であろうと」    やがてリーレンさんはそう言って、私の頭に手を乗せました。    言葉とは裏腹に、とても優しげな目をして。   「遠慮すると自分の大切なものが奪われる。――年寄りからの忠告だ」    そして、私に背を向けて去っていきました。    遠ざかっていく足音を聞きながら、私は空を見上げました。   「大切なもの……ですか」    地球にちょっと未練が出てきたかもしれません。  
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