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「え……」
私は目を疑いました。
暗闇の中から歩み出た人物は、着物を着ていたのです。
朱色の生地、鮮やかな金の装飾――素人目でも高価な物だと分かります。白い帯も朱色の紐も色が綺麗です。
私のいた日本でも、あんな立派な着物、滅多にお目にかかれません。
まさか日本の……!?
私は戸惑いながら、こちらへ静かな動きで向かってくる着物の人物を見ます。と、ここで私の本能が反応を示しました。
胸部に窺える膨らみ。着物の人物には平均程度な大きさの胸があります。身体つきも華奢ですし、女性みたいですね。
私としたことが。気づくのが遅くなってしまいましたね。
しかし、今回は仕方ないでしょう。着物の人物の顔が見えないのですから。
別にのっぺらぼうだとか、暗くて見えないとか、そういう話ではありません。
狐の面を付けていて顔が隠されているのです。従って、長くて綺麗な黒髪しか見えません。
……顔が見たい。彼女からは美少女のオーラを感じます。私の勘ですから間違いありません。
敵なのはほぼ確定ですが、私はちょっと交渉してみることにしました。
「お嬢さん。お面を取ってくれませんか?」
私が声をかけると、着物の少女はその場に立ち止まります。
数秒の無音。何も答えない着物の少女は、かなり遅れて小首を傾げるリアクションを返しました。
それから、無言で左手を少し上げます。
何をするつもりなのでしょう?
疑問を抱く私。しかし次の瞬間、彼女の手に握られている物に気づき、戦慄することになります。
身長の半分ほどはある、白く輝く刀身。黒い鍔、柄。片刃で反りの入った剣――日本刀です。
波のように美しい刃紋は見事としか言い様がなく、柄も鍔もいい艶をしています。まるで新品同様。よく斬れそうな品でした。
……ええ、顔とか胸とか、腰のラインを見てましたから、まったく気づきませんでした。手に握られた抜き身の日本刀なんて。
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