三章:真夜中の来襲者

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  「え……」    私は目を疑いました。    暗闇の中から歩み出た人物は、着物を着ていたのです。    朱色の生地、鮮やかな金の装飾――素人目でも高価な物だと分かります。白い帯も朱色の紐も色が綺麗です。    私のいた日本でも、あんな立派な着物、滅多にお目にかかれません。    まさか日本の……!?    私は戸惑いながら、こちらへ静かな動きで向かってくる着物の人物を見ます。と、ここで私の本能が反応を示しました。    胸部に窺える膨らみ。着物の人物には平均程度な大きさの胸があります。身体つきも華奢ですし、女性みたいですね。    私としたことが。気づくのが遅くなってしまいましたね。    しかし、今回は仕方ないでしょう。着物の人物の顔が見えないのですから。    別にのっぺらぼうだとか、暗くて見えないとか、そういう話ではありません。    狐の面を付けていて顔が隠されているのです。従って、長くて綺麗な黒髪しか見えません。    ……顔が見たい。彼女からは美少女のオーラを感じます。私の勘ですから間違いありません。    敵なのはほぼ確定ですが、私はちょっと交渉してみることにしました。   「お嬢さん。お面を取ってくれませんか?」    私が声をかけると、着物の少女はその場に立ち止まります。    数秒の無音。何も答えない着物の少女は、かなり遅れて小首を傾げるリアクションを返しました。    それから、無言で左手を少し上げます。    何をするつもりなのでしょう?    疑問を抱く私。しかし次の瞬間、彼女の手に握られている物に気づき、戦慄することになります。    身長の半分ほどはある、白く輝く刀身。黒い鍔、柄。片刃で反りの入った剣――日本刀です。    波のように美しい刃紋は見事としか言い様がなく、柄も鍔もいい艶をしています。まるで新品同様。よく斬れそうな品でした。    ……ええ、顔とか胸とか、腰のラインを見てましたから、まったく気づきませんでした。手に握られた抜き身の日本刀なんて。  
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