三章:真夜中の来襲者

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   そりゃ首を傾げたくもなります。外見からして殺る気満々なのに、対峙した私から、顔を見せてくれと言われるのですから。    不意打ちをしてこないだけでも上等と言えましょう。    着物の少女は刀を私に示すように、一度軽く振ります。始める、と意思は言わずとも伝わってきました。    足音を聞いていたとき以上の緊張感が場を覆います。    着物の少女は私を敵視している。それがはっきり認識できました。   「いいですよ。そっちがやる気なら、私は抵抗するまでです」    私が言うと同時に、着物の少女は走り出しました。    速度は並程度。刃先を外側に向けて、左手を広げたまま走ってきます。日本刀を片手で持ってこのスピードなら、異常なくらいでしょう。    さて……相手はどう攻めてくるでしょうか。    日本刀ですし、そんな無茶な振り方はしてこないと思いますが。    とりあえず防御。剣を構えたまま注意深く着物の少女を見ます。    数秒後に、着物の少女が刃の届く範囲に入りました。    彼女は刀を振るわず、大きく一歩踏み出し、私の間近に接近します。    そして広げた左手に握った刀――外側に向けていたその刃先を、僅かに内側へ修正。その先にいるのは私です。    狙いが大体分かりました。どうやら刺してくるみたいです。    そうはさせまいと、私は後ろへ下がろうと試みます。しかし――下がれない。    日本刀に意識を持っていかれていた私は、もう片方の手の動きに気づけなかったのです。    着物の少女の空いている右手。それは大胆にも、武器を持つ私の腕を掴んでいました。    か細い腕ながら、強い力です。抵抗しても全く離してくれません。
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