三章:真夜中の来襲者

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   日本刀の鋭い切っ先が、私の首目掛けて迫ってきます。    このままでは一撃でやられる。あっさりと。    焦り出す私。しかし日本で行ってきた特訓の経験が、冷静な思考をもたらします。    何かしなくては。剣は使えないから――格闘です。それも、すぐ体勢を崩せるような技。あれしかありません。   「やらせません!」    キッと目を鋭くさせ、私は床すれすれで足払いをしかけます。同じタイミングで着物の少女の肩に手を添え、横に押す。    身体の中心を軸にした攻撃。一連の流れが綺麗に決まり、着物の少女は転倒しました。手が解放され、日本刀は私の前を通過します。    状況は好転。このまま倒れた相手を踏みつけ――ようとしますが、それは踏み止まります。    下手すれば内臓が破裂しかねません。あくまで戦闘不能。殺す気はないのです。   「くっ……」    となると、倒してからの追撃手段はありません。私は歯噛みしながら後ろへ。剣を構えて様子を見ます。    加減して戦う。それは格下相手にのみ通用する戦い方です。果たして彼女と私に、それほどの差があるのか……。むしろ、総力では負けている気がしてなりません。    けど、やらなければ死ぬだけ。命の危機が迫れば……奪うことも考えましょう。   「……」    着物の少女は私が離れるとゆっくり、かつ止まることなく立ち上がりました。    転倒させただけでは、ダメージは皆無。彼女の動きには支障を一つも感じさせません。    仕切り直し。互いにダメージはなく、私達は再び対峙します。    今度は先手をとるとしましょう。着物の少女が行動する前に、私は剣を少し下げ、肉薄します。    そして一閃。間合いに入ってすぐ、横へ剣を振るいます。    しかし着物の少女は動きません。日本刀は下げたまま、構えすらとっていませんでした。    結果、剣は命中。彼女の着物を裂き、腹部を引っ掻く程度に切ります。    ――浅い。切りにかかっていたのに、圧倒的に踏み込みが足りない。もしくは、腕を伸ばしていないのか。どちらにせよ、私の意思でないのは確かです。    やはり無意識の内に私は加減を……。  
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