三章:真夜中の来襲者

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   命の危機が迫れば、なんて中途半端な考えがいけなかったのでしょうか。    日本刀が向かってくるのを見ながら、考えます。攻撃の隙を綺麗に突かれました。防ぐ手立てはありません。    狙いはおそらく腹部。間合いからして、十中八九刺突でしょう。    お腹を刺されてもすぐ死にはしません。ですが、痛みで確実に動けなくなります。    死を覚悟……なんてできませんよね。刀が迫る最中も、私は必死にどうするべきか思考していました。    けど、何も思い浮かびません。切るしかないのです。相手を無力化するには。    情けない。中途半端な実力、覚悟で戦おうとするからだ。   「っ……!」    自分を責め、目を閉じます。私を襲うであろう激痛。せめてそれには耐えよう、と。    それが私にできること。最後の意地でした。   「――だから言っただろう」    響く甲高い音。聞こえてくるのは優しい声。    痛みが襲うことはなく、私は夢でも見ているかのような気分で目を開きます。    誰かが私を守るようにして、前に立っていました。    細い身体、白髪が混ざった茶色の髪。剣を構えながら、肩越しに振り向くのは――   「加減はしないことだ、とな」    ――リーレンさんです。  
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