三章:真夜中の来襲者

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           フルスさんは名前だけ言って、あとは黙ってしまいました。数秒黙った後に口にしたのは「行くわよ」という短い言葉のみ。あとは歩くばかり。    神の遺産とやらが眠る場所へ向かっているのでしょう。    神の遺産。    その名に間違いなければ、まさに主人公が持つに相応しい強力な品なのでしょう。    そんなものが何故、このお屋敷にあるかは分かりませんが、誰かが来襲する理由には十分です。    なので、フルスさんを追求するようなことはしません。今は非常事態ですし、襲われた理由が分かればなんとでもなります。    私は彼女の後ろを歩きながら、のんびり考えました。   「……つまり、ここに来たのは盗人ですか」    神の遺産。それを狙ってやって来た何者か。結論は敵が盗人だということくらいしか出ません。    呟いた私へ、フルスさんは頷きました。   「そうよ。多分、継承する遺産を増やそうとしている継承者の一味ね」   「継承者?」   「神の遺産を継承した人間のこと、また継承の資格を持つ人間の名称よ。継承者は六つの遺産を全て継承すれば、神になれると言われているわ」    そんな設定が……つまり私は継承者で、遺産とやらを手に入れれば神になれるんですね。なるほど分かりました。   「あなた、何か勘違いしてない?」    思い切り自分を主役扱いしていると、心を読んだとしか思えないフルスさんの台詞が飛んできます。   「はい? 私が継承者だったら、と妄想してましたけど?」   「やっぱり。継承者は異世界から来る決まりだけど……残念ね。ロウは来る時期が遅かったから、多分違うわ」    からかうように言われた言葉は、私の妄想をシャットダウンさせました。    私がこの世界に来る前から、神の遺産云々のイベントは始まっていたようです。    さらに話から予想すると、継承者は同時期に異世界からこの世界にやって来る模様。    となれば私は完全な無関係。無理のない理論です。    少しくらい主役の位置に立たせてくれてもいいのに……設定の意地悪!  
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