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「ええ、まぁ……
これくらいしか、取り柄、ないですから……」
暗い表情をする美羽さんに釣られてか千恵まで暗い表情になる。
これはいかん、なんとかしなければ……
「やっ、やっぱりお父さんに教えてもらってたの?
その、剣術とか……」
「はい。
お父さんは私なんかよりずっとずっと強いんですよ」
美羽さんの表情が少し明るくなった。
よかった、話題選択にミスはなかったみたいだ。
「だから……大丈夫だと思ってたんですけど……」
あれ……?
なんか、雲行きが……
「あのあと道場に行ったら誰も居なくて……
代わりに沢山の血と、血で汚れた抜き身のこの刀が……」
「わわわ!
ごめんごめん!
別に無理して言わなくていいから!」
今にも泣きそうな表情の美羽さんの話をを慌てて止める。
彼女自身そんな話なんかしたくないだろうし、何より、親の死んだ話なんて俺が一番聞きたくなかった。
そして多分、千恵も、智治だってそんな話は聞きたくない筈だ。
「あっ、はい……すいません。
少し、喋り過ぎましたね……」
美羽さんは一瞬ハッとしたような表情を見せると、申し訳なさそうにそう言って刀を腰のベルトに戻した。
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