event03 開幕戦

10/64
前へ
/725ページ
次へ
「ええ、まぁ…… これくらいしか、取り柄、ないですから……」 暗い表情をする美羽さんに釣られてか千恵まで暗い表情になる。 これはいかん、なんとかしなければ…… 「やっ、やっぱりお父さんに教えてもらってたの? その、剣術とか……」 「はい。 お父さんは私なんかよりずっとずっと強いんですよ」 美羽さんの表情が少し明るくなった。 よかった、話題選択にミスはなかったみたいだ。 「だから……大丈夫だと思ってたんですけど……」 あれ……? なんか、雲行きが…… 「あのあと道場に行ったら誰も居なくて…… 代わりに沢山の血と、血で汚れた抜き身のこの刀が……」 「わわわ! ごめんごめん! 別に無理して言わなくていいから!」 今にも泣きそうな表情の美羽さんの話をを慌てて止める。 彼女自身そんな話なんかしたくないだろうし、何より、親の死んだ話なんて俺が一番聞きたくなかった。 そして多分、千恵も、智治だってそんな話は聞きたくない筈だ。 「あっ、はい……すいません。 少し、喋り過ぎましたね……」 美羽さんは一瞬ハッとしたような表情を見せると、申し訳なさそうにそう言って刀を腰のベルトに戻した。
/725ページ

最初のコメントを投稿しよう!

308人が本棚に入れています
本棚に追加