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相手の威圧的な態度に怯んでいると、とんとんと肩を叩かれた。
すると、振り向くよりも早く智治の言葉が鼓膜を震わせた。
「もういい。
説得は失敗だ」
俺としてはもうちょっと粘ってみようかと思ってたんだけど……
まぁこんながらの悪い人にごり押しはしたくないしな。
きっとお互いに不幸になるだけだ。
「ああ、分かった。
ごめん」
手短にそう言ってから千恵と美羽さんを促して退散することにした。
「えっ、でも……」
が、あまりにもあっさりし過ぎたのか千恵が困惑した様子で彼と俺達を交互に見ていた。
その場で立ち止まる千恵に少し遅れて俺達も脚を止める。
「千恵、しょうがないよ。
向こうも嫌がってんだ。
無理強いはよくない」
「そうか……そうだよね……」
千恵はそう応えるとわざわざ彼に向き合って丁寧にお辞儀をしてからこっちにかけてくる。
ほんまええこや……
そんな事を思いながら止めていた脚を動かそうとしたその時だ。
「ちょっと待て」
後ろから声が聞こえた。
何だと思って振り替えると奴がいる。
「……どうしたんですか?」
「――ってやる」
何か用かと尋ねると、彼はうつ向きながらなにかぶつくさと呟いた。
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