event02 予行演習

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でも、それとは裏腹に気持ちは先へ先へ行こうとする。 「それに、万が一お前の親が亡くなってたら……どうすんだ……?」 もしも、母さんが死んでたらきっと後悔するんだろう。 今までの事とか、出来なかった事、やりたかった事、いろんな事が頭を巡って……それで、泣くんだろう。 無くなってしまった未来に、自分の無力さに。 「なにも……出来ない……」 本当に、なにも…… 「だったら行くメリットなんかどこにもない…… 行くだけ……無駄だ……」 智治の手が力んで腕が少し痛い。 自分でそんな事言ってるくせにその表情はとてもじゃないけど納得しているようには見えなかった。 「そう……だな……」 選択肢を自由に選べないもどかしさが言葉の切れを悪くさせる。 「だっ……大丈夫だよ、大地君……」 重苦しい沈黙の中、千恵が弱々しい笑顔を見せる。 「みんなのお父さんとお母さんは多分生きてるよ。 だから、安心して今生きる事を考えよ? 生きてればきっといつか、また会えるから……」 まるで、自己暗示だな…… 震える千恵の声を聞きながらそんな事を思ってしまった。 でも、それが嘘臭い幻想だって分かっていても、千恵の言葉は俺にとっての救いだった。 石のように重くなっていた足がふっと軽くなるのを感じた。 「うん、そうだな」 そう応えると智治も軽く頷いた。 たった半日で心がガリガリになった気がする。 まだ不安も、恐怖も、納得できなくてもやもやしてるこの感情も、全然消えてはくれない。 でも、まだ俺の見える範囲に、手の届く範囲に大切なものがある。 だから、絶望してる暇なんてない。 絶望なんてする必要なんてない。 これからが本番。 俺達は必ず生き残る……!
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