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 乾いた風にもてあそばれる外套をかきあわせ、皇甫(こうすけ)はフードを目深に被った。  砂塵が舞う。そこそこ知られた顔貌を薄汚れたやぼったい布に隠して砂埃に覆われた車道を踏みしめる。行く先どこへでも押しかけてきたメディアはもういない。あるのは、流れてきたよそ者を値踏みする、よこしまな視線だけだ。  ある者はとろりと濁った眼を緩慢にもたげて、ある者はつま先から脳天までを舐めるように睨みつけ、またある者は遠くを見つめる素振りで視界の端に流れ者を置いていた。  たしか、と皇甫は巡らせる。 「古き良きビデオゲームでは、酒場が情報交換の場なんだよねー」  とかなんとか、たしか虎太郎が言っていた。荒廃したスラム都市でも情報収集は酒場が良いのだろうか。  足元できらめいているのは、店先のガラス窓だ。火事場泥棒はいつなんどきでも現れる。U.S.大統領がヒト滅亡を断言したときも例外ではなかった。空前の大混乱に乗じて、ガラスというガラスが粉砕された。  その後、現在の窓は隙間風大歓迎といった趣である。そのへんに転がっている木片や鉄板を無造作に組み合わせて打ち付けただけ、雨が吹きこまなければ御の字の壁もどきだ。  窓なのに壁もどき、という、ゆゆしき事態を酒場を探しがてら、皇甫はテキトーに考える。  一、いわゆる職人のたぐいが不足している。  二、いても働くのをやめた。  三、その彼らに頼むまでもないという判断。  一の可能性は低い。元都市部であるスラム都市に集まっているのは元有職者で、職人はよっぽどの腕がない限り、乗船リストに上がらない。ということは、元職人はここスラム都市にゴロゴロいる。  二の場合、物々交換がスラム都市にまで及んでいることになる。新たに建設する場合を除いて、労働力の対価に物品を交換するメリットが乏しい。  おまけの二,五。隙間風に悩まされるくらいなら食いっぱぐれた方がましだわ! なんて思っているやつはスラム都市で生きていけない。  三まで没落していればやりやすい。三の状況下で必要なものは、食糧とそれを守る用心棒だ。
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