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 アニーが店内に滑り込んできた。即座にコンクリートの壁に背をつけてへたり込む。 「コースケ! コースケ! いたら返事して!」  返事をする気配のない皇甫を、トムが「おい」と促す。皇甫はため息をもらしながら肩をすくめ、 「いない」  そんな皇甫の返事は歯牙にもかけず、アニーは怒鳴り声を上げる。 「置いていくなんてひどいわ!」 「連れ立ったつもりはない」 「なによそれ!」 「部屋に置いてきたつもりだった」  旅先の荷物みたいな言い方だな、と呆れるトムに、皇甫はついでのように呟いた。 「旅先の荷物は追っ手を引き連れてきたりしない」 「あいつら、勝手についてきたのよ!」 「お前もな」 「最低!」  アニーは、手に持っていたコルト・ガバメントを口にくわえ、床を這ってカウンターの裏に移動する。 「大丈夫か」トムはアニーに手を差し出す。「お前もジオから逃げてきたのか」 「ありがとう。トム」  唾液で濡れたガバメントをタンクトップの胸で拭う。 「逃げてないわ。玄関から堂々と出てきたもの」 「派手に?」と、ため息まじりにトム。 「なんで知ってるの?」 「お前もか……」 「そんなことより、トム! このサイテー男をぶん殴っていいかしら」 「ぜひそうするべきだと思うが、今は待て」  と、アニーを片手で制して、われ関せずといったふうに外の様子を伺う皇甫に向き直った。銃弾の嵐が静まるのを待って、トムは口を開く。 「これからどうするんだ」 「砦までの道筋を教えてくれ」 「道筋ったってなあ、二十五マイルはあるぞ」 「それがどうした。問題あるとは思えない。ついでに、この街でどんぐりを敵に回して、健やかに暮らせるとも思えない」 「それは俺もそう思うよ」 「あと二、三分もすれば、やつら、ここに乗り込んでくるだろうな」 「……俺もそう思うよ」 「そういえば、まるで敵に回されたかのように集中砲火あびてるここって、お前の店だったな」 「俺もそう思うよ! 一体だれのせいだ! ああもう、わかったよ!」  喚いて、トムは、カウンターの引き出しを漁る。 「裏から出る」  と、立ち上がろうとするトムの腕を取って、皇甫が自らの肩に回す。 「脚の具合はどうだ」 「見ての通りだ」 「二十五マイル走れそうか」  トムに肩を貸し、片足を引きずる速度で歩きながら平然とのたまう皇甫に、トムは小さく笑った。  「片道ならな」
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