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「ここかしら? それともこっち?」  と、キーであらゆる場所をざくざく突きまくり、 「お、おい……もっと丁寧に扱ってくれ……」  崩壊前からの家宝なんだ、とトムが黒い顔を青くさせる横で、正解の差し込み口にざりざりとキーを突き刺した。 「あれ? おかしいわね。他にエンジンのスイッチがあるのかしら」  アニーは小さく首を傾げ、今度はドンドンと拳で叩きまくる。拍子にホーンが短く鳴り響いた。 「ん? なんか音がしたわね。これがスイッチ?」  シャッターがビリビリと振動するほどの、ばかでかいホーンの音が狭いガレージを揺るがす。 「違う違う!」耳を塞いでトムが怒鳴る。「キーを、回すんだ!」 「やだ。知ってるなら早く言ってよ」  恥ずかしそうに顔を赤らめたアニーがキーを回せば、その曲線美にランプの光を反照する黒い鉄塊は、全身を震わせながら低く唸り、永い眠りから目を覚ました。 「素敵……」 「ああ、本当に……」  うっとりするアニーとトムを尻目に、皇甫は、 「来るぞ」  と、声色低く告げ、トムを助手席に押し込んだ。直後、ばたばたと店内から足音が聞こえ、シャッターの向こう側から連続して銃を撃ちこまれた。  皇甫はとっさに伏せ、口の中で舌打ちする。 「まずいな。回り込まれた。トム、ドアを閉めて伏せていろ。アニー出せ」  後部座席のドアを開け放ち、盾にしてハンドガンで応戦する。 「コースケ! 早く乗って! えーと……足を使うって言ってたわね、これかしら」  皇甫が乗り込んだのを確認して、アニーがペダルを思い切り踏む。ひときわ大きく唸りを上げるが、進まない。銃弾がフロントガラスを破った。 「アニー、今すぐ出さないと蹴り出すぞ」  淡々と口にする皇甫の冷酷な宣告に、アニーが半狂乱になって叫ぶ。 「回転数は上がってるんだけど、進まないの!」 「免許が必要なくらいだ。危険なんだろう。銃のように安全装置みたいなものがあるのでは――」 「レバーだ!」巨体を丸めて伏せていたトムが思い出したように声を上げた。「横のシフトレバー!」 「レバーレバーレバー……これね!」  ドウン、と、弾丸になったかのような衝撃が走り、その勢いで車体がシャッターを突き抜けた。
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