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「ど、どうせ、ガス切れだろ……」  タトゥー男は頭から引火性の高い液体をぶっかけられて、言動と裏腹に声が震えている。 「残念ながら」  鈍色のふたを親指で弾き、皇甫は石を擦る。  火が点ったのを見せつけて、ふたを閉める。遅れて、胸がすくむ懐かしい匂いが立ちこめた。 「フードは取らなくても?」  タトゥー男は壊れた振り子人形みたいに頷く。 「それはよかった。この至近距離では、俺の顔まで焼けてしまう」 「だ、だれか、こいつに水を持ってきてやれ!」  店内の誰も応じない。それどころか、視界の隅に入った男は、へらへらとだらしのない笑みを口元にへばりつけて酒をあおる。  タトゥー男は助けるまでもない下っ端なのか、それとも助けるという概念が崩壊しているのか、そもそも仲間ではないのか。いずれにせよ癇に障る。 「早く持って来い! ぶっ殺すぞ!」  という脅しは、皇甫ではなく、タトゥー男が言ったものだ。タトゥーの地位がどうであれ、一応は仲間であるようだ。  ようやく仲間の一人が、めんどくせえをしこたま込めたような舌打ちと共に、緩慢な仕草で腰を上げた。千鳥足でカウンターの中に入っていく。  皇甫は素早く店内に視線を走らせた。フードによる視界の狭さにはもう慣れた。  酔っぱらいがざっと十五人、そのうち、腕に覚えがありそうな者は二人。いや、三人か。それにしても、と皇甫はそこから目を逸らす。 「げせんな」  タトゥー男と目が合った。ひ、と音が鳴るほど強く息を吸って、タトゥー男は青ざめる。 「隅の行為と感想を掛けたつもりだったが、やはり、ジョークのツボに違いがあるようだな」   意味がわからない、といった顔のタトゥー男からも視線を外す。 「ここは長いのか」  またタトゥー男の喉が鳴った。その肩のタトゥーもジョークなのか、と喉元まで出かかるが、堪えて質問を繰り返す。
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