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「ここは長いのか?」
「ほ、崩壊前からここで店をやってる」
「なるほど。後ほど教えて欲しいことがある。何も報酬はやれないが答えてくれるか」
ほとんど痙攣に近い動きで頷く気配を感じ、皇甫は鷹揚に頷き返す。
「助かる」
フードから覗く口元が笑みを形作ったと同時に、「貸ひな」としゃっくり混じりの声が掛かった。
「そのボトルに入れらいいんらろ」
「頼む」
タトゥー男にライターを向けたまま、さっきまで酒で満たされていた水筒を差し出す。しゃっくり男はフードを透かし見んばかりに睨みつけながら、水筒をふんだくった。
しゃっくり男は震える手で水筒にじょうごをさす。酒の飲みすぎだ。
「まら煮沸してねえけろ、いいな」
煮沸したまらは心底いらないが、
「構わない」
ポリバケツから注ぎいれる水をサブサブとこぼしまくるほど震えていれば、皇甫に突き返す水筒がチャプチャプと鳴るほど震えている。ろれつも回っていない。
「ありがとう。ひとつ忠告するが、少し酒を控えた方がいい。もしくは、酒のグレードを上げるか」
「よえいなお世話ら」
「気が合うな。俺も言いながらそう思っていた」
皇甫はライターを下ろして、タトゥー男としゃっくり男に背中を向けた。
「不愉快ら」
ドア穴と違う方向に歩く皇甫の背中に、しゃっくり男が浴びせかける。皇甫は、店の隅で足を止めた。
「同感だ」
言うが早いか、皇甫は、女を組み敷く男の頭上で水筒をひっくり返した。しゃっくり男た入れたばかりの水が男の脳天で跳ねる。固まった男の脳天に空になった水筒を落とした。
「悪い。あまりに不愉快で手が滑った」
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