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「死ね!」  タトゥー男がハンドガンをかまえていた。皇甫はホルスターから素早くCZ75を引き抜いて、躊躇なく引き金を引く。小爆発で押しだされた九ミリルガー弾はタトゥー男の太腿に吸い込まれた。タトゥー男は、達磨落としを彷彿させる動きで真下に崩れ落ちる。  がなり声とも唸り声ともつかない店主の呻きが、銃痕だらけの壁に反響する。 「そこまでだ。お前たち、銃を下ろしなさい」  店の奥から太い声が聞こえ、皇甫を狙っていたいくつかの銃口が床に向いた。さすが元善人、聞き分けが良い。 「きみも」  と奥から歩いてくる男が皇甫を手の平でさした。やけにずんぐりむっくりしている、どんぐりのような中年だ。用心棒と思しき風貌の男三人に囲まれて、いかにも偉そうだが、いかんせんどんぐりだ。しかも外見から見て取れる年齢の割に、頭髪が圧倒的に少ない。後退して残り少ないブロンドを頭皮にへばりつかせている。  どんぐりの、どこまでそれかわからない額に免じて、皇甫は銃を下ろした。 「私はジオ。きみは」  差し出された脂っこそうな手を視界の端でやり過ごす。  半年前なら、はじける笑顔で応じたところだが世界と共に礼節も崩壊した、ということに、皇甫はしたい。地球規模の水不足なのだ。手を洗う水がもったいないから、握手の必要性を感じない。しかし、名乗る必要はあるだろう。 「皇甫」  ジオは握手を拒否されることを見越していたような堂々たる雰囲気で引っ込め、その手で脂っこいブロンドを撫でつけた。握手しなくてよかった。 「コースケ。ようこそ、崩壊の中心、ワシントンD.C.へ」  脂ぎった中年の爽やかで親しげな笑顔に、皇甫は思う。  飲んだくれが元善人で、自分たちが元悪人なら、この中年は、従来悪党だな、と。
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