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「ときにコースケ。もうランチは済ませたかな」
ランチ、と皇甫は腹の中で反芻する。ランチだと。驚いたことに、この悪党は荒廃したこの世の中で決まった時間に食事を取る。取ることができる。
「まだ」
「一緒にどうだい? 美味しいものを揃えよう」
「フードはこのままでも?」
ジオは人好きのする笑みを浮かべた。
「もちろん構わんよ」
「ならば、お言葉に甘えて」
無感情に言いながら、皇甫は外套の中にCZ75を引き上げた。
「ではコースケ。こっちだ」
肩に手を回してドア穴に誘導しようとするジオを片手で制して、皇甫は、床でうずくまって呻いているタトゥーの前に膝をついた。
「見せてみろ」
手を差し入れて脚を持ち上げると、タトゥーは脂汗を噴き出しながら、ひときわ強く呻いた。手にべっとりと血のりがつく。
「弾は貫通しているな」言って、バッグに手を忍ばせる。「ズボンの替えは」
「この状況でそれを訊く神経を疑うぜ」
タトゥーは苦痛に顔を歪め、切れ切れに言葉を返す。
皇甫は、もっともだ、と呟いて、バッグから出したハサミでズボンを切り開いた。ハサミの刃を外套で拭ってバッグにしまい、かわりにスキットルと布きれを取り出した。
「いいやつなのか、わるいやつなのか、わかんねえ野郎だな」
「どちらの自覚もある。しみるぞ」
むき出しになった傷口にスキットルを傾ける。透明な液体が傷口にふりかかり、タトゥーは悲鳴を上げた。アルコール特有に刺激臭が広がる。
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