カクテルⅠ

7/31
前へ
/31ページ
次へ
「……リュウタ」 「リュウタ。良い名じゃない」 「あの、ここはいったい……?」 怪訝な表情で恐る恐る尋ねるリュウタに、ヒメは思わず噴き出した。 「え?」 「あ、いえ。ごめんなさい。……でも、そんなに警戒しなくでも良いのよ。ここはただのバー。悩める子羊たちの悩みを聞く、暖かい場所よ」 ニコッと優しい笑みを向けるヒメに、思いがけずリュウタは面食らう。 「……で、あなたの悩みはなにかしら?」 「…………」 閉口する彼にヒメは嘆息し、グラスを磨くバーテン服に視線を向ける。 「マスター。彼にも頼むわ」 「……わかりました」 マスターと呼ばれたバーテン服はそう言って丁寧にお辞儀すると、背後の棚からアイスぺールやシェイカーなどの器具を取りだし、目にも止まらぬ早さでカクテルを作り始めた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加