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背中を向け悶々と考えてた私に、ひんやりと冷たい空気がまとわりつく。
泪の冷たい手が私の体を後ろから抱きしめたから。
「ねぇ絢…僕はこれからもこうして絢のそばにいてもいい?」
少し甘えたような声で言う泪の言葉がなんだかとても切なく感じて思わず涙が溢れ出す。
「幽霊の僕でも…絢の心の支えになれるかな…?
僕は…いつだってこうして絢を抱きしめてあげれるから…
…ずっと絢のそばにいてもいい…?」
「…何でそんな事を聞くのよ」
泣きそうになるほど嬉しいのに…
素直になれない自分がもどかしい。
「絢の心の中で…僕は柚木に勝てるかな…?」
「…だから何で…柚木さんが出て来るのよ」
「…だって僕はもう絢が好きでたまらないから。
絢を誰にも渡したくないんだ」
透き通った甘い声。
あの夜…侑暉の途切れそうな電話に混じった…
私を待ってたよって言った時と同じ甘い声で囁く泪に私の時計がゆっくりと動き出した。
「泪…私は……」
振り返った私を柔らかく微笑んで見つめる泪。
…彼が幽霊だろうと…
この世の人でなくても…
「…私も…泪が好き…。
だから…ずっとそばにいて…」
そう言いながらも私の瞳に溜まっていた水滴がはらはらとこぼれ出す。
寂しかった…。
ずっと…ずっと寂しかったんだ。
たった一人で生きてくなんて…
もう出来ないって思ってた。
誰かにこうしていつも支えて欲しかったんだ。
冷たい胸に顔をうずめてゆっくりと左手を泪の背中に回した。
「絢…もう離さないよ?
覚悟はいいね?」
ぎゅっと抱きしめてくれた泪の胸でコクンと頷いて私は目を閉じる。
…私は…
その夜…幽霊に恋をした。
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