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その日、その時、その瞬間。
壬生浪士組の副長である土方歳三はかなりイラついていた。
「おい、歳」
と、土方の親友であり、この浪士組の局長でもある近藤勇がその角張った顔をゆがめて、土方を見ている。
そんな事など関係なく、土方は、その鋭い目を更に細めてイラつきを堪える事に必死だ。
そのイラつきの原因は、目の前にいる女のせいだ。
「…それで、こっちが飲み薬。これを飲めば大体の病気は治るから、あると便利よ」
そう言いながら、背負っていた籠から何枚もの薬の紙を取り出している、この女が気に食わない。
長い黒髪を後ろで一つにまとめ、前髪も一つに束ねて額に垂らしている貧乏臭いこの女は、先程いきなり訪ねてきて、
「薬を買ってくれ」
と言ってきた。
「うちは石田散薬があるから必要ない」
そう言って追い返そうとしたが、女は全く聞かず…
もう小一時間ぐらい、ずっと薬の説明やら宣伝の話を聞かされているのだ。
しかもそれならまだしも、この女は
「石田散薬ぅ?聞いた事ないな…どんな薬で?」
と言って土方に石田散薬を持ってこさせ、それを一目見た瞬間
「こりゃ、とんでもないエセ薬ね」
とぬかしたのだ。
それを聞いた瞬間、ぶん殴ってやろうと思った土方ではあったが、横にいる近藤に止められた。
「まあまあ、歳。こんな娘さんが一人で商売してるんだ。
話ぐらい聞いてやろう」
近藤にそうなだめられては土方も反撃できず。
仕方なく座敷に招いて話しているわけだが…
土方はそろそろ限界だった。
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