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「土方さんは厳しい方ですから。
何か、殴られる心当たりでもありますか?」
「う~ん…しいて言えば、あの土方の野郎に
“石原散薬は効果のないエセ薬”
って言ったくらいね」
「あ…それは不味いですね」
沖田は頭を抱えて答えた女に苦笑いしながら答える。
「石原じゃなくて、“石田散薬”です。
その石田散薬は、土方さんが前に苦労して行商していたものなんです」
「ん? そうなの?」
「ええ。…それをエセ薬なんて言えば、誰でも怒るでしょう?」
「それはそうかもしれないけどさ。
何であれ、エセ薬には違いないもの」
「はは。どうやら、あなたがそんな態度を取っているから、土方さんも怒ったんでしょうね」
「んな事どうでもいいじゃないの」
ブーブー言う女だが、沖田は気にせず女に質問する。
「そういえば、あなたのお名前は?
それに、どうしてここに?」
その質問に、女は古ぼけた着物のほこりを払いながら答える。
「私は怜(レイ)っていう名前の、ただの薬売り。
ここに新しく入る奴が来たって聞いたから、営業に来ただけよ」
「へぇ……」
ポンポンと着物についた砂ぼこりをはたきながら言った怜。
そんな怜を見ながら
(京にも、こんな人がいるんだな)
と、上品で雅な女の多い京都にもこんな泥臭い女がいると知った沖田は、興味津々だ。
それに何より、怜の言葉遣いが、京都の者ではない事に気付いてもいた。
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