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「怜さん、あの…」
沖田が怜に何か言おうとしたその時、屯所の門から誰かが入ってきた。
「今、戻ったぞ~」
そう言いながら門をくぐってきた大柄のガタイのいい男に、沖田は微笑をおくる。
「お帰りなさい永倉さん。今日は早かったですね」
「はは。実はここに忘れ物をしちまってな。
またすぐに行かないといけねぇんだ」
「それは、お疲れ様ですね」
「まあな。…それより」
と、永倉という男は沖田の隣に立っている怜に視線を向ける。
「あんた、見たことないが…ここの隊士に用でもあるのか?」
「まあ、用事といえばそうだけどさ」
怜は背負おうとした薬カゴを永倉に見せる。
「さっき、この沖田さんにも話したけど。
私はこの近くで薬売りをしてんの。
ここにはただの営業で来ただけよ」
「そりゃ、ご苦労なこったな」
「本当よ。こっちは商売で来ただけだってのに、土方とかいう奴に殴られるしさ」
「ん? 土方さんが殴っただと?」
永倉が驚いた表情をしていると、沖田が補足した。
「いや、実は土方さんの石田散薬にケチつけたらしいです。
それで土方さんも怒って」
「ほうほう。そりゃ、大した女子だな」
「別に、ケチつけた訳じゃなくてただ事実を言っただけよ。
あの石田散薬はただのエセ薬だって…」
ムッと怜が反論するのを見て、永倉は
「あんた、面白い女子だな。気に入ったよ」
と笑い、怜の肩を掴んで引き寄せた。
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