薬売り

6/21
前へ
/35ページ
次へ
「怜さん、あの…」 沖田が怜に何か言おうとしたその時、屯所の門から誰かが入ってきた。 「今、戻ったぞ~」 そう言いながら門をくぐってきた大柄のガタイのいい男に、沖田は微笑をおくる。 「お帰りなさい永倉さん。今日は早かったですね」 「はは。実はここに忘れ物をしちまってな。 またすぐに行かないといけねぇんだ」 「それは、お疲れ様ですね」 「まあな。…それより」 と、永倉という男は沖田の隣に立っている怜に視線を向ける。 「あんた、見たことないが…ここの隊士に用でもあるのか?」 「まあ、用事といえばそうだけどさ」 怜は背負おうとした薬カゴを永倉に見せる。 「さっき、この沖田さんにも話したけど。 私はこの近くで薬売りをしてんの。 ここにはただの営業で来ただけよ」 「そりゃ、ご苦労なこったな」 「本当よ。こっちは商売で来ただけだってのに、土方とかいう奴に殴られるしさ」 「ん? 土方さんが殴っただと?」 永倉が驚いた表情をしていると、沖田が補足した。 「いや、実は土方さんの石田散薬にケチつけたらしいです。 それで土方さんも怒って」 「ほうほう。そりゃ、大した女子だな」 「別に、ケチつけた訳じゃなくてただ事実を言っただけよ。 あの石田散薬はただのエセ薬だって…」 ムッと怜が反論するのを見て、永倉は 「あんた、面白い女子だな。気に入ったよ」 と笑い、怜の肩を掴んで引き寄せた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加