薬売り

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「ちょっ…ちょっと、いきなり何すんの!?」 突然の永倉の行動に、怜は慌てて永倉の腕を振り払ったが、永倉は気にも止めず怜の頭をポンポン軽く叩く。 「固い事を言うなよ。あんた、営業で来てるなら少し俺に付き合え。 そうすりゃ、もしかしたら薬を買ってやるかもしれないぜ」 怜の髪をワシャワシャと撫でる永倉に、そばで見ていた沖田はさすがに 「永倉さん。初対面の女性に変な事をしないであげて下さいよ」 と、永倉と怜を引き離そうとしたが、何故か永倉の言葉に怜は目を輝かせて 「買ってくれるんなら、どこでも付き合うよ」 そう言って永倉の肩に手を回していたので、沖田は (この人は、そんなに薬を売りたいのか…) と呆れて、もう放っておく事にした。 その間、永倉と怜は互いに肩を組みながら上機嫌で話し合っている。 その後、永倉は屯所から金を持ち出し、怜と共に屯所を後にした。 「全く。変わった女性がいたもんだ」 二人を見送る沖田がタメ息をつくと、ふと後ろから気配がした。 「土方さんでしたか」 いつの間にか縁側に出ていた土方は、振り向いた沖田を手招きする。 「総司。永倉の様子はどうだった?」 「別に。いつも通りでしたよ。 いつもと同じように、芹沢さんと昼間から飲み歩いているようです」 「そうか…」 「どうしたんです? そんな事を聞いて」 沖田の問いに土方は 「何でもない」 と呟くと、その猫背気味の体を反転させ、また部屋に戻っていった。 その土方を見て、沖田は (そんなに芹沢さんが気に食わないのか) と、土方の本心を見抜き、またタメ息をついた。
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