薬売り

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一方、永倉と怜の二人は京都の街道を一緒に歩いていた。 「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。 あんた、何て言うんだ?」 「ん? あぁ…怜って名前」 「怜さんか…変わった名前だな」 「ほっといてよ」 「悪い悪い。んで、俺は永倉。永倉新八って名前だ。 江戸の出身でな。京に来てから、そんなに日が経ってないから未だに京に馴染めなくて困ってるよ」 「ふ~ん」 「怜さんも、言葉遣いからして京の人間には見えないが…どこの出だ?」 「ああ…確かに京女じゃないよ。 生まれは東海道の宿屋らしい」 「らしいってのは、どういう事だ?」 顎に手を当てて答えた怜に更に質問すると、怜は「実はね…」と前置きをして続ける。 「私は捨て子だったんだ。親の顔も見たことなくて。 今言った、東海道の宿屋の前に捨てられていたのを拾われたのよ」 「拾われた? 誰だそりゃ」 「今、一緒に暮らしてる父ちゃん。 父ちゃんっていっても、もう60近いけどね」 「なるほど。それで、その父ちゃんと一緒に薬売りをしてるって事か?」 「そんな感じ」 「そうか…あんたは苦労人だったんだな」 「さあ。苦労人って言っても、みんな生きてりゃ何かしら苦労するもんでしょ?」 「はは。しっかりしてるな。歳はいくつだ?」 「21」 「21か…俺と四つ違いだな」 そんなとりとめもない会話をしていると、永倉の目的地へと到着した。
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