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「ずっと、というか……キミが目を覚ます前からここにいたのは確かだ。そして、はい」
そう言って幹の反対側から、ずい、と差し出されたのは、
「私のボストンバッグ!!」
慌ててそれを手に取ると、声の主はくすくすと笑う。
「ちょっと、ランタンを準備するよ。話はそれから」
声の主―――多分男性だから彼―――がゴソゴソと荷を漁るような物音が聞こえる。
私は手元に戻ってきたボストンバッグを胸の前でしっかりと抱え、彼の準備が終わるのを待った。
もう、とりあえず座っていいような気がするので、私はその場にゆっくりと座り込む。
少ししてランタンが灯り、辺りがほのかに明るくなると、彼は姿を現した。
「こんばんは、居眠りお嬢さん」
そう言って眉尻を下げた彼は、どこからどう見ても旅人で。しかも、私とそんなに歳も変わらなさそうな。
落ち着いた声をしているから、もっと歳上の感じをイメージしていた、のに。
つばの大きな帽子、少し裾が繕われているマント、大きなショルダーバッグ。
私みたいな家出人とは違う、多分本当に各地を渡り歩いているようなその風貌に、つい素敵だなぁと思ってしまう。
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